労務相談室 第 62 回 転職禁止 2025.04.28 第 62 回転職禁止 断食明け大祭休暇が終わると、インドネシアは転職時期に入ります。断食明け大祭前に宗教大祭手当を受領し、その後に転職活動を始めるのが最も多い傾向です。そんな時期に最も心配なのは競合他社への転職による守秘義務のある情報の漏洩ではないでしょうか。何とかそのような転職を防ぐ方法はないか考えてみましょう。 【転職禁止合意】 雇用契約内に競合他社への転職を禁止する条項を含めていることがあります。いかに守秘義務合意書を作成したことで、守秘義務のある情報を持ち出さない、漏洩させないということは可能ですが、社員の記憶に刷り込まれた情報や技能を転職先では用いないということは現実的ではありません。会社の守秘義務を徹底して守ろうとすると、競合他社へ転職しないのが最も確実なのです。ただこの合意は合法なのでしょうか。 インドネシア憲法は職を選択する自由を認めています。ですから労使の合意があったとしても職の選択の自由を妨げる合意は法の下で無効になります。ただし会社の存続を脅かす可能性のある情報漏洩を防ぐため、一時的に期間を限定した転職禁止の合意を行うことは近年認められ始めています。一生競合他社に勤務することができないという合意は違法としても、たとえば雇用関係終了から 3 年以内は競合他社で勤務しないとか、雇用関係終了後直接競合他社に転職しないなどという合意を行い、それを法的に合法と認めた例は出てきています。数年競合他社に転職しなければ、保有している情報はすでにアップデートされてしまい、役に立たなくなるからです。 【労働者側の抜け道】 労働者が転職する際の武器は技能や知識、経験です。それを競合他社が最も高く買ってくれることはどの労働者もよくわかっています。管理部門や購買、物流のようにその知識や経験が他の業種でも大差なく使われる場合は転職先の業種に大きなこだわりはないでしょう。一方生産技術、製造、設計、営業などは蓄積したノウハウを競合他社は欲しがります。転職のたびに待遇を大きく上げていく転職族としては競合他社への転職の禁止は大きな足かせとなります。特に特殊な製品に係る製造などは同じ業種をぐるっと回って転職している人がたくさんいます。そんな中で入社時には深く考えず、転職禁止条項を含む雇用契約書に合意して入社した後、転職を考えた時に現職から訴えられたり、転職を妨害されたりするケースがあります。そんな時労働者側はどんなふうにそれを乗り切るのでしょうか。 最もよくあるケースは別の会社に一時的に入社させてもらう形です。親戚や友人に頼んで一時的に籍を置かせてもらい、ほとぼりが冷めた後に競合他社に転職するやり方です。そしてもう 1 つよくあるのは独立するパターンです。労働者側が起業し、自社を立ち上げ、競合他社の下請や提携の契約をするタイプです。起業した場合もそのまま自社で頑張る人もいますが、多くはほとぼりが冷めるのを待ち、時間差で競合他社に転職するというケースが多いようです。いずれもいたちごっこでキリがないのですが、転職を防ぐ方法を考えるよりは、自社に居たいと思う環境を作る方法を考えた方が成功率は高いようです。 Tweet Share +1 Hatena Pocket RSS feedly Pin it 労務相談室#労務相談室 正しい年次株主総会のやり方セミナー 無料オンラインセミナー 「移転価格税務調査にどのように対抗するか」