お役立ち情報 第 61 回 グロスとネット 2025.03.19 第 61 回 グロスとネット 日本の賃金設定は通常グロス(税込み)で、社員の賃金から所得税や保険料を控除し、会社が全社員分をまとめて納税および保険料支払いするのが一般的です。所得税や保険料を支払うことは個人の義務であるという理解によるものです。一方でインドネシアではグロス設定とネット(手取り)設定の両方が存在しています。なぜそのようなことが起こっているのでしょうか。 【複雑な時間外労働賃金計算】 インドネシアでは今でも時間外労働は嬉しいもので、どんどんやりたい傾向が強いです。それは時間外労働の場合は通常よりかなり高額な賃金となるからなのです。現行法規の通常就業日の時間外労働は 1 時間目が 1.5 倍、2 時間目以降は 2 倍、休日の時間外労働は 8 時間までが 2倍、9 時間目が 3 倍、10 時間目と 11 時間目が 4 倍となる好待遇なのです。このような時間外労働は特に現場作業者に多く命じられるものですが、貧富の差が大きいインドネシアでは現場作業者の賃金は決して高いとは言えません。だから時間外労働をたくさんして、収入を増やしたいと考える人が多いのです。3 シフトで 24 時間操業すると賃金以外の収入はありませんので、社員側は 2 シフト+3 時間時間外労働で 24 時間操業してほしいと思う場合が多いようです。毎日 3 時間時間外労働、土曜日は 3 時間時間外労働付きでフルタイム働くと、なんと月 295.5 時間分の時間外労働賃金を受け取ることになり、月額定賃金の 2.5 倍を 1 ヶ月で受領します。このように時間外労働賃金に対するこだわりが大きい上に、計算が複雑なので、ネットで賃金を計算して自分の理解と正しいかどうかを確認したいという欲求が強いことがネットに固執する理由の 1 つです。 【ネット設定でないと安心できない】 時間外労働だけであれば、グロスで計算された給与明細で確認はできます。一方でインドネシアの所得税計算は社員にとって複雑でわかりにくいものです。複雑さそのものはインドネシアも日本も同じくらいではないかと思うのですが、「会社がちゃんと計算しているのだからこう なのだろう」と思う度合いが違いいます。⾧い植民地時代を経ているインドネシアの人々は「会社は不当に搾取する」というイメージが今も強くあります。ですから自分で計算したものと同じでないと疑うことになり、円満な労使関係になりにくくなってしまいます。それならば受領する額で契約する方が明瞭と多くの会社がネット設定を選ぶのです。ネット設定の場合は手取り賃金額を計算した後、所得税分をグロスアップします。グロスアップした金額が社員の賃金額とみなされるのですが、そこから所得税を控除して会社が納税すれば社員が理解している賃金額と一致します。では社会保険料はどうなっているのでしょうか。こちらの取扱は会社によって異なるようです。会社は全社員を 2 種類の社会保障に加入させますが、それぞれに会社負担分と社員負担分が定められています。ネット設定は手取り、つまり社員に振り込まれる金額なのだからという理解で社員負担分の社会保険料も会社が負担している場合もあります。一方で保険料は賃金から控除されるのだからネット設定の賃金から社会保険料の社員負担分を控除する場合もあります。こちらは計算も難しくないので、比較的社員は受け入れているようです。 Tweet Share +1 Hatena Pocket RSS feedly Pin it 第 60 回 評価システム